監督のことば
新田義貴
6年前、仕事の都合で沖縄に引越し、たまたま住んだ家が栄町市場から歩いて3分というご近所でした。以来、家族は昼間の市場で買い物を、私は仕事帰りに市場内の飲み屋で一杯やるという生活が始まりました。やがて、市場の人々とまるで家族のような付き合いをさせていただくようになりました。
市場を歩くと知り合いがたくさんいて、挨拶や何気ない会話を交わしあう。日常的に、人と人が思い合う。なぜかこんなごく当たり前のことが、自分の心の根っこの部分を“ポっ”と温めてくれるのを感じるようになりました。
そして、私も何か市場の再生のためのお手伝いが出来ないものかと、お祭りなどがあると映像で記録するようになりました。2009年、市場の人たちがCDを制作することになり、その様子をドキュメンタリーとして撮ろうと思い立ちました。すでにみな家族のように親しくなっていたため、市場の人々の自然な姿を撮ることができたのだと思っています。
この映画は、失われつつある“コミュニティ”の再生を描いたつもりです。そしてその肝になるのが、理屈や説明は必要なしに皆がひとつになれる“音楽”です。沖縄を舞台にしていますが、市場や商店街はかつては日本全国どこにでもありました。震災や原発事故をきっかけに、今こうした人と人との絆の大切さが問われていると思います。この映画をひとりでも多くの方にご覧いただき、コミュニティの核としての“市場”の素晴らしさや可能性を感じてもらえる一助になれば、光栄です。